港の上に立つアイリス2 -町への帰還。そして崩壊-
俺がケルクルイズを離れてから5年の月日が経とうとしていた。
あれからいろいろなことがあった。
死に掛けたことも当然あったし、うれしいことや悲しいこともたくさん経験した。
なにより一番うれしかったことは、立派な船乗りとして認められたことだ。
これで俺は久しぶりに島に戻ることができるのだ。
そう……これで待たせたアイリスとの約束をかなえることが出来るのだ。
今いる場所からケルクルイズまで、だいたい一時間といったところだろうか。
天候も問題はないし、予定通りつくだろう。
しかし、それから五分もしないうちに天候が急に崩れ始めた。
今まで静かだった海が急に波を激しく立て、風は強くなり、カジがまったく取れない危険な状況にまでなっていた。
この5年いろいろな天候に遭遇してきたが、ここまで異常とも言える現象ははじめてだ。
しかもここ、ケルクルイズ周辺の海域は普段非常に安定しており、ここまで異常に変化することはありえないのだ。
この異常ともいえる天候の変化に俺は胸騒ぎがした。
もしかしてケルクルイズに異常が起こってるのではないかと…。
しばらくすると、急に天候は元に戻り、俺が住んでいた島が見えてきた。
「懐かしいな……」
港に着くと、町は異常に静かだった。
そうまるで人なんか住んでいないかのように。
俺はすぐに、島中を走り回った。この町に何が起こっているのかを調べるために。
意外と5年も経っていても、島中の場所は覚えているものだ。
幸いにも、五年前とまったく変わらない町並みのおかげで迷わずに島中を回ることが出来た。
島中を回り気づいたことは、本当に人っ子一人いないという異常な状況がこの町で起きてるみたいだ。
たったの五年でこんなことになるものだろうか。
さすがにちょっと考えられない。
いや考えたくもない話だが……。
俺はこの異常な原因を探る方法をその場で考え、あるひとつの答えが出た。
「エルベなら俺が帰ってきたときのために何か残しているかもしれない……」
やつが俺にメモを残してくれていることなど、確率にしてみれば絶望的だったが、とくに町を調べて手がかりがなかっただけに俺にはこれに賭けるしか残されてなかった。
昔エルベと住んでたアパートへ向かった。
アパートに着くと昔と何も変わらない姿でそこに建っていた。
エルベと当時住んでいたのは、アパートの二階の左から二番目の部屋。
俺は、階段を一段一段上り、エルベと暮らしていた部屋へ向かった。
部屋に入ると、そこにエルベの姿はなかったが、机の上に随分前に書かれたと思われる手紙らしきものが置いてあった。
この手紙が書かれてから随分時間がたっていたせいなのかはわからないが、非常に読みづらく、ところどころは何かでこすったかのように擦れており読むことが出来ない。
ただその手紙から一つだけ察することが出来るのは、大半の村人がなんらかの原因で死んだということだった。
俺は、一瞬冗談かと思ったが、島を回っていたときにあるものを見つけてしまっていたのだ。
それは、壁や階段についていた大量の赤い液体。この文章からすれば……。
……この手紙の内容が本当だと確信したと同時に、すさまじい吐き気に襲われた。
俺はその吐き気を抑えつつ、アイリスの住んでいたところへと向かった。
なぜだかはわからないが、アイリスならこの現状についてのすべてを知っていそうな気がしたからだ。
アイリスの住んでいた家へとついたが、人の気配はない。
ドアをノックしても反応がない。
俺は恐る恐るアイリスの家の中へと足を踏み入れた。
アイリスの家の中に入ると異様にホコリっぽく、ここ数年は人の出入りがないくらい荒れていた。
リビングは玄関よりもひどく、まともに見れる状況ではないくらいに荒れていた。
肝心のアイリスの部屋はというと、ほかの場所に比べて異様に綺麗なものの、彼女が寝ていたと思われるベッドには大量の青い液体が付着していた。
「なんだ……この液体……まあ考えるのはよそう……気分が悪くなる……」
一通りアイリス家を探索してみたが、彼女の姿はどこにもなかった。
彼女もまた死んだのだろうか……。
「手がかりは、エルベの残した紙だけかよ……。
……アイリスと俺が通ってた学校もついでに調べるか……」
正直もう調べるのは嫌になっていたが、なぜかアイリスと通っていた学校まで調べないといけない気がしてきた。
まあいまはなんでそんなことを思ったのかすら考えるのも面倒。
さっさと俺は学園に向かった。
学園に着くと、まるで病院の廃墟と表現してもいいくらい荒れていた。
窓ガラスは全面割れており、あたりに破片が散乱している
「なんだこりゃ……」
学園内に入ると、あたりは昼と思えないほど真っ暗で、外から見るよりもいっそう不気味であった。
学園内を嫌々調べてから10分たったくらいであろうか。
突然背後から肩を叩かれた。
振り返るとそこには当時と何も変わらない姿をしたアイリスが笑顔でたっていた。
5年前と何一つ変わらない姿で。
俺は、彼女が無事だったことに喜ぶ前に、妙な違和感にとらわれていた。
――なぜ彼女は当時と何一つ変わっていない?
――なぜ彼女は俺の後ろに平然と立っている? いままでどこにいた?
――なぜこのような状況なのに笑顔でそこにいる? 俺の真後ろに。
きっと、このような状況でなければ俺も笑顔で彼女と再会できただろう。
だが、今はとてもじゃないが再会を喜べるような状況ではない。
俺は彼女に聞きたいことが山ほどあったが、そんな俺の気持ちなど知ってか知らずかアイリスは口を開いた。
「君がここを出てからもう5年。ふふ。私には長すぎたよ」
「……本当はもう少し早く帰ってくるつもりだったんだ」
帰ってこれるものなら、早く帰ってきたかった。
実際エルベやアイリス、そして街のことなど航海の途中一度として忘れたことはなかった。
しかし、そんな言葉などアイリスの耳にはまるで届いていないかのごとく彼女は続けた。
「やっぱり君は昔のままだね。ルイル。でも私も街も変わってしまった。もうあのころには戻れないんだよ」
「確かに街はこんなに変わってしまった。でもアイリスお前との失われた時間はこれから埋めていけばいいじゃないか」
我ながらなんというらしくない台詞だろうか。
しかし今の俺が返せる言葉はこれくらいしかなかった。
俺がそういった直後アイリスはとてもうれしそうな顔をしたがすぐにその表情は豹変する。
狂気に満ちた目で俺をにらみつける。
「それ本気で言ってるの?街はもうこんななんだよ? この街にいるのは私だけなんだよ?」
俺はそれを聞いた時すべてを悟った。
この街を滅ぼしたのはアイリスだと。
なぜ彼女がそんなことをしたのかはわからない。
ただ一ついえることは、このまま彼女の近くにいては殺されるということだ。
俺は彼女が次の言葉を発する前に、港に向かって全力で走った。
このままでは殺される殺される殺される殺される殺される殺される。
頭の中の思考はそれだけでいっぱいであり、今はほかの事などどうでも良かった。
俺は全力で港に走った。
しかしそこで待っていたのは、俺が乗っている船の船乗り達ではなくアイリスだった。
「ふふふふふふふふふ。話の途中で逃げるなんて……いつから君はそんな人になってしまったの?」
「…………」
まるで縄で縛られているかのごとく俺はそこから動くことができずに、彼女の話を聞く。
彼女は、一歩ずつ確実に俺に近づいてくる。
もはや俺は言葉すら発することができずにいた。
「さっきの言葉……うれしかったよ。でも――」
彼女が俺の目の前に来たとき俺の耳元でこう告げた。
「もう遅い」
彼女が告げたと同時に俺は胸に強烈な痛みを感じその場に倒れた。
あまりの痛さに意識が遠のく中彼女が涙を流しているように見えた。
一体なんで彼女は泣いているのだろうかと考える前に俺の意識はなくなった。
あれからいろいろなことがあった。
死に掛けたことも当然あったし、うれしいことや悲しいこともたくさん経験した。
なにより一番うれしかったことは、立派な船乗りとして認められたことだ。
これで俺は久しぶりに島に戻ることができるのだ。
そう……これで待たせたアイリスとの約束をかなえることが出来るのだ。
今いる場所からケルクルイズまで、だいたい一時間といったところだろうか。
天候も問題はないし、予定通りつくだろう。
しかし、それから五分もしないうちに天候が急に崩れ始めた。
今まで静かだった海が急に波を激しく立て、風は強くなり、カジがまったく取れない危険な状況にまでなっていた。
この5年いろいろな天候に遭遇してきたが、ここまで異常とも言える現象ははじめてだ。
しかもここ、ケルクルイズ周辺の海域は普段非常に安定しており、ここまで異常に変化することはありえないのだ。
この異常ともいえる天候の変化に俺は胸騒ぎがした。
もしかしてケルクルイズに異常が起こってるのではないかと…。
しばらくすると、急に天候は元に戻り、俺が住んでいた島が見えてきた。
「懐かしいな……」
港に着くと、町は異常に静かだった。
そうまるで人なんか住んでいないかのように。
俺はすぐに、島中を走り回った。この町に何が起こっているのかを調べるために。
意外と5年も経っていても、島中の場所は覚えているものだ。
幸いにも、五年前とまったく変わらない町並みのおかげで迷わずに島中を回ることが出来た。
島中を回り気づいたことは、本当に人っ子一人いないという異常な状況がこの町で起きてるみたいだ。
たったの五年でこんなことになるものだろうか。
さすがにちょっと考えられない。
いや考えたくもない話だが……。
俺はこの異常な原因を探る方法をその場で考え、あるひとつの答えが出た。
「エルベなら俺が帰ってきたときのために何か残しているかもしれない……」
やつが俺にメモを残してくれていることなど、確率にしてみれば絶望的だったが、とくに町を調べて手がかりがなかっただけに俺にはこれに賭けるしか残されてなかった。
昔エルベと住んでたアパートへ向かった。
アパートに着くと昔と何も変わらない姿でそこに建っていた。
エルベと当時住んでいたのは、アパートの二階の左から二番目の部屋。
俺は、階段を一段一段上り、エルベと暮らしていた部屋へ向かった。
部屋に入ると、そこにエルベの姿はなかったが、机の上に随分前に書かれたと思われる手紙らしきものが置いてあった。
この手紙が書かれてから随分時間がたっていたせいなのかはわからないが、非常に読みづらく、ところどころは何かでこすったかのように擦れており読むことが出来ない。
ただその手紙から一つだけ察することが出来るのは、大半の村人がなんらかの原因で死んだということだった。
俺は、一瞬冗談かと思ったが、島を回っていたときにあるものを見つけてしまっていたのだ。
それは、壁や階段についていた大量の赤い液体。この文章からすれば……。
……この手紙の内容が本当だと確信したと同時に、すさまじい吐き気に襲われた。
俺はその吐き気を抑えつつ、アイリスの住んでいたところへと向かった。
なぜだかはわからないが、アイリスならこの現状についてのすべてを知っていそうな気がしたからだ。
アイリスの住んでいた家へとついたが、人の気配はない。
ドアをノックしても反応がない。
俺は恐る恐るアイリスの家の中へと足を踏み入れた。
アイリスの家の中に入ると異様にホコリっぽく、ここ数年は人の出入りがないくらい荒れていた。
リビングは玄関よりもひどく、まともに見れる状況ではないくらいに荒れていた。
肝心のアイリスの部屋はというと、ほかの場所に比べて異様に綺麗なものの、彼女が寝ていたと思われるベッドには大量の青い液体が付着していた。
「なんだ……この液体……まあ考えるのはよそう……気分が悪くなる……」
一通りアイリス家を探索してみたが、彼女の姿はどこにもなかった。
彼女もまた死んだのだろうか……。
「手がかりは、エルベの残した紙だけかよ……。
……アイリスと俺が通ってた学校もついでに調べるか……」
正直もう調べるのは嫌になっていたが、なぜかアイリスと通っていた学校まで調べないといけない気がしてきた。
まあいまはなんでそんなことを思ったのかすら考えるのも面倒。
さっさと俺は学園に向かった。
学園に着くと、まるで病院の廃墟と表現してもいいくらい荒れていた。
窓ガラスは全面割れており、あたりに破片が散乱している
「なんだこりゃ……」
学園内に入ると、あたりは昼と思えないほど真っ暗で、外から見るよりもいっそう不気味であった。
学園内を嫌々調べてから10分たったくらいであろうか。
突然背後から肩を叩かれた。
振り返るとそこには当時と何も変わらない姿をしたアイリスが笑顔でたっていた。
5年前と何一つ変わらない姿で。
俺は、彼女が無事だったことに喜ぶ前に、妙な違和感にとらわれていた。
――なぜ彼女は当時と何一つ変わっていない?
――なぜ彼女は俺の後ろに平然と立っている? いままでどこにいた?
――なぜこのような状況なのに笑顔でそこにいる? 俺の真後ろに。
きっと、このような状況でなければ俺も笑顔で彼女と再会できただろう。
だが、今はとてもじゃないが再会を喜べるような状況ではない。
俺は彼女に聞きたいことが山ほどあったが、そんな俺の気持ちなど知ってか知らずかアイリスは口を開いた。
「君がここを出てからもう5年。ふふ。私には長すぎたよ」
「……本当はもう少し早く帰ってくるつもりだったんだ」
帰ってこれるものなら、早く帰ってきたかった。
実際エルベやアイリス、そして街のことなど航海の途中一度として忘れたことはなかった。
しかし、そんな言葉などアイリスの耳にはまるで届いていないかのごとく彼女は続けた。
「やっぱり君は昔のままだね。ルイル。でも私も街も変わってしまった。もうあのころには戻れないんだよ」
「確かに街はこんなに変わってしまった。でもアイリスお前との失われた時間はこれから埋めていけばいいじゃないか」
我ながらなんというらしくない台詞だろうか。
しかし今の俺が返せる言葉はこれくらいしかなかった。
俺がそういった直後アイリスはとてもうれしそうな顔をしたがすぐにその表情は豹変する。
狂気に満ちた目で俺をにらみつける。
「それ本気で言ってるの?街はもうこんななんだよ? この街にいるのは私だけなんだよ?」
俺はそれを聞いた時すべてを悟った。
この街を滅ぼしたのはアイリスだと。
なぜ彼女がそんなことをしたのかはわからない。
ただ一ついえることは、このまま彼女の近くにいては殺されるということだ。
俺は彼女が次の言葉を発する前に、港に向かって全力で走った。
このままでは殺される殺される殺される殺される殺される殺される。
頭の中の思考はそれだけでいっぱいであり、今はほかの事などどうでも良かった。
俺は全力で港に走った。
しかしそこで待っていたのは、俺が乗っている船の船乗り達ではなくアイリスだった。
「ふふふふふふふふふ。話の途中で逃げるなんて……いつから君はそんな人になってしまったの?」
「…………」
まるで縄で縛られているかのごとく俺はそこから動くことができずに、彼女の話を聞く。
彼女は、一歩ずつ確実に俺に近づいてくる。
もはや俺は言葉すら発することができずにいた。
「さっきの言葉……うれしかったよ。でも――」
彼女が俺の目の前に来たとき俺の耳元でこう告げた。
「もう遅い」
彼女が告げたと同時に俺は胸に強烈な痛みを感じその場に倒れた。
あまりの痛さに意識が遠のく中彼女が涙を流しているように見えた。
一体なんで彼女は泣いているのだろうかと考える前に俺の意識はなくなった。