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港の上に立つアイリス1 -旅立ち-
いつものように晴れ渡った空。
いつもと違うことといえば、今日俺はこの島を離れるということくらいか。

「……なにをしけたツラしてんだよ……朝飯できてるからな!」

俺が空を見ながらぼーっとしていると、同居している男エルベが話しかけてきた。
俺が今行くと言おうとした時には、彼はすでに部屋から出ていた。

「ったく……これで当分会えないっていうのに……」

俺がぼやくのも当然で、俺は今日から海に出る。
つまりこの町とも当分おさらばになるわけで、エルベともしばらくの別れとなるわけだ。

朝食をさっくり済ませ、おいしい朝食を作ってくれたエルベに心の中で感謝をし、旅立つ準備をした。
旅立つ準備といっても、前々から少しずつ準備をしていたためか、なんだかんだすぐに終わってしまった。
俺が乗る船が出航するまで、それなりの時間が残っていた。

「今までお世話になった人のところでも回るか……」

普段は絶対にそんなことを思わないが、この時ばかりは回りたくなった。
さすがに生まれたときから住んでいただけあって、名残惜しいんだな俺……と苦笑いを浮かべ、回ることにした。
よくお世話になった商店街の人や、学園の先生などの挨拶を済ませ終わったころにはちょうどいい時間になっていた。

「……もうこんな時間か……あーそういやアイツにまださよなら言ってねーな」

アイツとはアイリスのことで、昔俺と一緒のクラスにいたロングヘアーでかわいい女の子のことだ。
当時俺がアイリスのことが好きだったということは、クラス中で話題になっていた。
最初は根も葉もない噂だったのだが、その噂がクラスに広まるうちに本当にアイリスのことを意識するようになってしまった。
それからは、彼女と話すことが照れくさくなり、話すことでさえ恥ずかしくて出来なくなってしまったわけだ。
まさかこんなときにまで、さよならをいうことができないなんて、どんだけ度胸がないんだろうか俺は。
ま、まあしょうがない……もう時間もねーし、港に向かうか。

港に着くと、俺が乗船する船の前に彼女が立っていた。
そう……アイリスだ。
彼女は、俺が港に着いたことに気づくと、ものすごい勢いで俺に向かって走ってきた。
彼女が俺の目の前に着くや否や、いきなり俺の頬を思いっきり叩いた。

「もうどうして私に一言言ってくれなかったのよ!」

え……あ……と情けない声を出す俺に、彼女は続けて

「ねえ……次あなたがここに戻ってきたら……私と結婚……して?」

は? ととっさに声がでてしまったものの、俺は顔を真っ赤にして頷いた。
きっと、今俺の顔を鏡か何かで見れるものならリンゴのように真っ赤であろう。恥ずかしい。
しかも、俺は男……それこそ海に出るっていうのに、先にアイリスから結婚を申し込まれるというこの状況に、告白されるうれしさ異常に恥ずかしかった。
正直できることなら今すぐここから立ち去りたい! と思ったとき船から声が

「ほら若造! もう時間だ! 早く乗れ!」

船長の声だった。俺は、アイリスに一言いってくると告げ、船に乗り込んだ。
俺が船に乗るとすぐに船は港を離れた。
船はあっという間に島を遠ざかり、俺が住んでいた島はあっという間に小さくなり、やがて見えなくなった。
島が見えなくなった頃……俺はひとつの誓いを立てた。
それは、生きてまたこの島に帰ってくるという誓いを。