港の上に立つアイリス5 -異空間の終焉- ----------------------------------------------------- アパートを出た瞬間エスティアの様子に異変が起こった。 「……うっ…………」 ドサッという音とともに、エスティアが地面に崩れ落ちる。 「おい大丈夫か!?」 声をかけても反応がなく、むなしく俺の声が回りに響いただけだった。 仕方がないので、彼女を背負い休める場所を探すことになった。 彼女を背負ったまま歩くこと15分くらいだろうか。 他の場所とは明らかに言い意味で空気が違う場所に出た。 ここでなら、エスティアを休息させることが出来そうだ。 周辺にあった家に入り、エスティアベッドに寝かせた。 「俺もなんか疲れたな……エルベは大丈夫か?」 「……」 エルベの反応はなく、横を見るとエルベは寝ていた。 「なんだよ……」 俺もそのまま意識がなくなった。 ――ふと目を開けると、そこにアイリスが立っていた。 だがアイリスは俺を狙っているわけではなく、エスティアを狙っているようだった。 だがアイリスは彼女に向かって一向に攻撃しようとしない。 ……というか何故俺は冷静にこの状況を見てるんだ? なんとかアイリスをこの場から追い出すことを考えるべきだろうが・・・・・・ そう思考を巡らせたと同時か、それよりも少し後か、体がアイリスに向かっていった。 「お前には”今は”用がない」 俺がアイリスに近づいたその瞬間アイリスの声とは思えないほどの低い声とともに俺は吹っ飛ばされる。 「グググ・・・コノ女サエイナケレバ・・・スベテハ計画通リダッタノニ・・・」 「ナゼ・・・オレノヤロウトシテイルコトヲ止メルノダ? オマエダッテ・・・」 「ググ・・・ヤメ・・・コレハオマエガノゾンデイタコトダロウ?」 なにやらアイリスは独り言を呟いてた。が、オレにはもう立ち上がる力すらなく、 その場でじっとその状況をみることしかできなかった。 「……アイリス……あなたアレに魂を売ったの……ね……だから……」 エスティアがアイリスに向かってそういうものの、アイリスにはエスティアの 声が何一つ聞こえていないようだった。 「グググ……シネェエエエエエエ」 すごい形相でエスティアのほうに突き進むアイリス。 アイリスがエスティアに接触するかしないかのところで、アイリスが突然その場から消えた。 「……はぁ……疲れた……しばらく本当に休ませて……」 どうやら彼女の魔法でアイリスを退散させたらしい。 危機は去ったものの、魔法を使ったショックからかエスティアは気を失ってしまった。 「しばらくここで休憩か……」 俺も疲れがたまっていたのか意識を失うかのように眠りに付いた。 目を覚ますと、エスティアはすっかり回復しており、手持ちの武器の手入れをしていた。 「はぁ……前の仕事の疲れもこれで完全に抜けたわ。これでもう大丈夫。ありがとうエルベ」 「い、いや俺は何も……」 ? なぜかしらないが起きたらエルベとエスティアがすごく仲良くなっていた。 寝てる間に何があったのだろうか。 ……そんなことよりだ。 「これからどうするんだ?」 「そーねえ……さっさとアイリスを倒しますか。このままだとややこしいことになる」 「ややこしいこと?」 「そう。もうこの世界は彼女にとってもどうでもいいから、このままだと私たちみんなここで死ぬわね」 「どうでもいいって……どういうことだ……?」 「こういうコトダ! 」 あたり一面が真っ黒になり、俺の目の前に浮かぶひとつのシルエット。 そうアイリスだ。周りを見渡してみてもエスティアやエルベの姿は見当たらなかった。 「グぐ……ルイルお前は邪魔だ……俺の計画が狂ウ……」 「あなたの計画なんて知らない!」 「――!!」 いつの間にかエスティアがアイリスの後ろを取り、アイリスの表情は苦痛の表情を浮かべており、 立つのすらやっとという状態になっていた。 このわずかな時間になにが起こったのかは俺には何一つわからなかったが、ただひとつわかることは アイリスが彼女に深手を負わされたというこの状況だけだった。 「グ……バカナ……クソ……モウコノ体ニハ用ガナイ!」 アイリスの体から黒煙が上がりはじめ、黒煙は徐々に不気味な魔物にへと姿を変えた。 その魔物の姿はといったら、鋭い爪が生えた手足に、黒い筋肉質な体。 目は赤く非常な不気味な顔立ちに巨大な翼。 一言で言うならば伝説の生き物”ドラゴン”に非常に近い容姿をしていた。 「これが黒幕か……」 「イカニモ……マッタクバカナ女ダ……伝説ノナントカトイッタガ、所詮我ノホウガ上……」 「ソレニモカカワラズ、我ヲ取リ込モウトシオッテ……マア力ハ相当スワセテモラッタガナ」 アイリスのほうに目をやると、彼女は既に原型をとどめてなく、骨だけになり、横たわっていた。 「なんてことを……」 醜い姿となったアイリスを見て、エスティアは怒りに満ち溢れ、詠唱を始める。 が、敵も詠唱が終わるまでまってくれるわけでもなく、怒りでまともな判断が出来ていないエスティアはあっさり吹き飛ばされてしまう。 「う……」 「バカメ……コンナコトデ判断ヲニブリオッテ」 「くっ……でも、もうあなたお終いよ?」 「ナ……ンダト……」 次の瞬間、ドラゴンのような容姿をした魔物は一刀両断したかのごとく真っ二つになり、消滅した。 が、消滅したと同時に、世界構造が崩れ始めた。 「もうここもお終いね。最後の私の仕事は、あなたを元の世界に帰すだけね」 「え……俺だけ? エルベはどうなんだよ!!」 「エルベはもう……死んでるのよ……結構も前にね……」 「え?」 「さあ長話をしている時間はもうないの。バイバイ。ルイル」 エスティアの目が潤んでいるようにも見えたが、それを確認するすべはもう残されていなかった。 目を開けると、アイリスに接触したあの場所で俺は横たわっていた。 あの出来事すべてが夢だったのであろうか。 ……いや夢ではないようだ。 なぜなら俺の横に息をしていないエスティアが横たわっていたからだ。 どうやら彼女が回復したということは嘘で今の今までずっと無理をしてきたらしい。 彼女が最後の仕事といったのも、この任務が最後の仕事ではなく、自分の人生としての最後の仕事だったのだろう。 俺は彼女を一番見晴らしのいい丘の頂上に埋め、質素ながらもお墓を作った。 そこの横には遺体こそないものの、エルベやアイリスのお墓も作った。 そして俺は、再び航海を続けることにした。 エスティアやアイリス、そしてエルベのためにも立派に生きるという誓いをして。 fin あとがき 港の上のアイリスを読んで下さりありがとうございます。 どれくらい読んでくれてる方がいるかがわかりませんが、これにて、このSSは終了です。 続きを書くことも、番外編でルイル航海記を書くなんてこともありません。 当初はこれは、11回で終わる予定だったんですが、今回で終わる形となりました。 理由としては、この作品に対するモチベーションの維持が困難になってきたということと、文章力の問題ですね。 まあ一番でかいのは当然のことながら文章力ですけどね……。 ○○というシーンが書きたいと思っても、なかなかシックリくる表現が書けず、編集削除の繰り返しでなかなか書けないというループにはまり、挙句にここまで放置するということになってしまいました。 なので、本来書く予定であった、エスティアとエルベのことや、アイリスに取り憑いていた魔の正体。 更には、アイリスがやられる展開や、戦闘シーン(?)の大幅変更…… と、内容的には1/3いや半分くらい省くという形で収まる形となりました。 さっぱりな部分が多すぎると思いますが、その辺は脳内補完でどうにかしていただけるとありがたいです…。 脳内補完なんてできねーよ! な方のために最後にキャラクター設定とかを置いておきます。 キャラクター設定 ルイル 本作の主人公。 そこらの男。 エルベと同居していたが、男が好きなわけではない。 性格は基本的に温厚で、霊感が強い。 ある船乗りとの出会いをキッカケに海に出ることを決意する ちなみに、船乗りに出会う前は海が嫌い。なぜなら両親が船の事故で死んでるから。 エルベ そこらの男。 ルイルとは腐れ縁に近い。 基本的に自分の感情を表現するのが下手。今で言うツンデレ。 ルイルが海に出るといったときは、許したものの、内心はすごく許せなかった。 ルイルが、海にでてから3ヶ月後、村に謎の疫病が流行り、エルベ含む村人はアイリス以外全員死ぬ。 アイリス 本作のヤンデレヒロインであり敵 ルイルには実は一目ぼれ。 実はあったときからルイルのことが好きだったという。 ルイルが海に出るということをエルベから聞かされたとき、エルベに包丁を突きつけたとか突きつけなかったとか。 ルイルが海に出てから3ヶ月後、魔との契約を果たし、超人的な力を手に入れるも、魔に精神を食われてしまう。 その後彼女に乗り移った魔は、町に疫病を広め、町を壊滅させる。 町を壊滅させた後、魔は自らが作った世界に引きこもり更に力を蓄えようとする。 だがルイルがこの町に戻ってくることで、魔の計算が狂うことになる。 エスティア 世界を監視している者の一人。 強大な魔力を有しており、魔法の詠唱速度や威力どれをとっても、監視員の中でも上位。 ただし、この物語に登場する前の時点で、相当な力を消耗していたため、アイリスの撃破に予想以上時間がかかり、最終的に命までも落としてしまう形になる。 魔 アイリスと契約を果たした魔。 本来ルイル達がいる世界には存在しない者。 アイリスの召喚魔法により呼び出される。 アイリスは、魔を召喚すると同時に契約し、魔を取り込み自分の力にしようとするが、失敗する。 ちなみに魔は二重人格。 ひとつはアイリスの想いが混ざった人格。もうひとつは魔自体の人格である。 怒りに我を忘れると、一人称が”俺”になる。 最後に どうしてエスティアが何もしてないのに魔が真っ二つになって死んじゃったの(´・ω・`)? > エスティアは怒りに満ち溢れ、詠唱を始める。 ルイル君にはそう見えたようですが、本人はいたって冷静に魔法を詠唱しています。 その際、最上級の次元トラップを短縮詠唱で唱え、その後にフェイク用の魔法をわからないように唱えてたんです。 よって、最初の次元トラップの詠唱には成功しているので、一定時間後に自滅するかのように魔は死んだのですね。 ちなみにこの魔法は、対象者と術者の距離が一定以上はなれてしまうと効果解除になってしまいます。 効果量や、有効範囲は術者の力に依存します。 しかも使用後は、術者の力量+相手の力量に応じたダメージを自ら受けます。一種の自爆技です。